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「抱え上げない介護」を目指す ―日本の介護現場の未来を支える移乗サポートロボット「Hug」の挑戦

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株式会社FUJI ロボットソリューション事業本部 新規事業部 Hugプロジェクトリーダー
1998年、富士機械製造株式会社(現 株式会社FUJI)に営業として入社、電子部品実装ロボットの販売部門にて台湾・中国市場への拡販に従事。
その後、内部監査室、社内基幹システム構築プロジェクト、調達部門と、多様な部門にて経験を積んだ後、新規事業の先駆けとなる「未来創出プロジェクト」にて、新分野でのビジネス創出に携わる。現在は介護ロボットの開発、企画、販売を統括するプロジェクトのリーダーとして、高齢社会の課題解決に取り組む。
目次

高齢化の進行とともに、介護現場では深刻な人手不足が続いています。特に、ベッドから車椅子、トイレへの移動など、利用者を“抱え上げる”移乗介助は、介護者にとって身体的負担が大きく、腰痛の原因となるほか、離職につながる要因の一つにもなっています。

一方で、介護を必要とする高齢者の増加に対し、介護人材の不足はますます深刻化しています。老老介護や介護離職といった社会課題も広がる中、「介護をどう支えるか」は、もはや介護業界だけの問題ではなくなりつつあります。

そうした課題に対し、FUJIが開発した移乗サポートロボット「Hug」は、新たな解決策として注目を集めています。もともとは介護施設向けに開発された機器でしたが、現在では在宅介護や医療の現場にも広く導入され、利用者本人の自立支援やリハビリ効果まで期待される存在へと進化しています。

今回は、Hugプロジェクトリーダーに、開発の背景や市場開拓の苦労、そして今後の展望について話を伺いました。

「高齢化社会の中で、介護をどう支えるか」が出発点だった

まず、Hug開発の背景について教えてください。

高齢化が進む中で、介護現場の環境をどう支えていくかは大きな課題となっています。医療費の増大や病院経営の厳しさを背景に、国としても健康寿命の延伸や在宅介護の推進に取り組んでいます。しかし、その実現を支える人材は絶対的に不足しています。医療や介護の施設では人材確保が大きな課題となっており、募集をかけても応募が集まらないケースも少なくありません。また、在宅介護の現場でも、老老介護の増加やヘルパー不足といった課題が深刻化しています。

こうした社会課題を背景に、FUJI社内では、長年培ってきたロボット技術や制御技術を、電子部品実装ロボット以外の分野にも展開し、より身近な社会課題の解決に活かせないかという議論がありました。そうした中で着目したのが介護分野です。人材不足の解消や介護負担の軽減に向けて、テクノロジー活用への期待が高まる中、FUJIの技術で貢献できる領域として挑戦を始めました。その挑戦から生まれたのが移乗サポートロボット「Hug」です。

介護ロボットというと、まず介護施設向けを想像します。

実は、Hugは在宅介護での導入が多いのが特徴です。私たち自身、ここまで在宅介護での利用が広がるとは当初想像していませんでした。現在、Hugは介護保険を活用した福祉用具レンタルの対象機器になっています。ベッドや車椅子と同じように、利用者がレンタルできる制度となっています。

ただ、そこに至るまでには大きなハードルがありました。介護保険の認証を取得するだけでなく、レンタル事業者に採用してもらわなければ全国に普及しません。レンタル事業者側も、機器を資産として保有する必要がありますから、導入そのものが大きな挑戦でもありました。

「介護施設より先に在宅介護での利用が広がった」予想外の展開

最初から在宅介護向けを意識していたのでしょうか。

最初は、むしろ介護施設での利用を想定していました。2016年に最初のモデルを投入したものの、介護施設への導入としては100台程度にとどまりました。

一方で、在宅介護の現場には切実な課題を抱える利用者やご家族が数多く存在していました。在宅介護で利用する場合、介護の専門知識や経験を持たないご家族が操作することが前提となります。だからこそ、誰でも簡単に使えることが重要でした。

どのような点を重視したのですか。

とにかくシンプルにすることです。説明書を読まなくても使えるほどの分かりやすさを目指しました。

最初のモデルは、現在のモデルと比べると重く、大きく、価格も高い製品でした。重量は現在の倍近く、価格も200万円ほどで、介護施設向け製品としても普及には限界がありました。

そこで、「不要なものを徹底的にそぎ落とす」という発想に切り替えました。市場が本当に必要としている最小限の機能だけを残し、小型化・軽量化・低価格化を徹底しました。その結果生まれたのが、現在の主力製品である「Hug L1」です。

「ロボットらしさ」を捨て、生活に溶け込むデザインへ

現在のHugは、柔らかい印象のデザインですね。

初期モデルは、とても“メカっぽい”デザインでした。黒いフレームで角張っていて、正直、受け入れにくい印象もあったと思います。しかし、介護施設や自宅で使うことを考えると、部屋の中に置いて違和感がないことが重要になります。そこで、柔らかい色合いとフォルムにし、壁や家具に近い存在感を目指しました。介護される方が怖がらないようにすることも大切でしたし、「ロボット」というより、「生活道具」に近い存在を目指しました。

重量も約30kgまで軽量化しました。男性なら一人でも持ち運べますし、女性でも二人いれば車に積み込める重量です。価格も大幅に見直し、初期モデルから大きく低減しました。

かなり大胆な判断ですね。

普通は新機能を追加して差別化していきますよね。でも私たちは逆でした。

「いろいろできる」を捨てて、本当に必要な機能だけに絞り込んだ。それが市場に受け入れられた理由だったと思います。

2019年に大きな転機 在宅介護市場で一気に普及

市場が大きく動いたタイミングはいつだったのでしょうか。

2019年ですね。2018年までは年間50台程度だった導入台数が、レンタル事業者で採用されたことをきっかけに、導入台数は一気に10倍規模へと拡大しました。在宅介護の現場からは、「これなら私でも操作できる」「家族の体の負担を気にせずトイレに行けて嬉しい」などの喜びの声が、たくさん寄せられるようになりました。

介護業界は、ある意味で“横並び”の世界でもあります。「あの事業所が使っているなら、うちも使えるかもしれない」という形で導入が広がっていく傾向があります。最初に採用してくれるキーパーソンを見つけるまでが本当に大変でした。

どのように市場を開拓していったのですか。

まず、介護業界のことを知らなければなりませんでした。そこで、介護業界出身の人材を社内に迎え、市場構造を徹底的に学びました。どこを攻めれば普及するのか。誰がキーパーソンなのか。業界の外からは見えない市場の構造や意思決定のプロセスがありました。

その上で、業界の中で影響力のある方々に会いに行きました。最初は全く相手にされませんでしたが、一人の役員の方が「一度試してみるか」と言ってくださったのです。そこから一気にHugが広がりました。新規事業では、「隣が使っているから、うちも使おう」という流れを生み出すことが重要になります。

「介護される人」にもメリットがあることが見えてきた

Hugの導入で、現場にはどんな変化が起きていますか。

最初は「介護者の負担軽減」が主な目的でした。ところが、実際の運用が進むにつれて、利用者側にも大きなメリットがあることが分かってきました。

例えば、これまでは介護者が抱え上げる負担の大きさからトイレへの移動が難しかった方が、Hugを利用することで、介護者の負担なくトイレにいけるようになります。なかには、おむつをしていた方が、おむつを外せるケースも出てきました。また、ベッドから起き上がる機会が増えることで活動量も増え、食事量の増加や身体機能の維持につながります。さらには気持ちも前向きになり離床の機会が増えることで、Hugを使わずとも立ち上がることができる方も出てきました。このような事例から、利用者のADL(日常生活動作)向上を支援する機器としても期待が高まっており、昨今では医療・リハビリ分野の先生方からも注目されています。

「Hugに関わる仕事をしたい」と志望して入社する若手も

現在のプロジェクト体制について教えてください。

プロジェクトメンバーは10人程度ですが、実際には、製造や修理、カスタマーサポートなど、社内のさまざまな部門と連携しています。FUJIのものづくりの基盤を活用できることは大きな強みです。

また、「Hugに関わる仕事をしたい」と言って入社してくれる若手もいます。ご家族の介護経験をきっかけに、この仕事を志望した社員もいます。社会課題の解決に携わりたいという想いを持つ若い世代が増えていると感じています。

「介護テクノロジーの可能性を、もっと多くの人へ」

今後の課題は何でしょうか。

一番は認知度の向上だと考えています。まだ、このような機器の存在が十分に認知されているとは言えません。介護は、自分が当事者になるまでなかなか実感しにくい世界です。だからこそ、どう伝えていくかが難しい。ただ、介護離職の問題など、社会全体で考えなければならない課題は確実に増えています。

そうした中で、テクノロジーを活用して介護現場を支えるという考え方は、これからますます重要になっています。また、国の政策においても介護テクノロジー活用の数値目標が示されており、介護現場におけるテクノロジー活用を後押しする流れが強まっています。高齢化が進む日本において、「介護」は社会全体の課題です。Hugがその課題解決の一助となれるよう、今後も普及と機能向上の両面に取り組んでまいります。

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